生成 AI の著作権リスクは誰が負う?Google・AWS・Microsoft の補償ルールと権利侵害への備え方
Google、AWS、Microsoft の生成 AI に関する補償について調査しました
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author: Shintaro
はじめに
2025年10月31日に、講談社、KADOKAWAなど出版・マンガ・アニメ関連の企業が属する2つの業界団体 (日本動画協会・日本漫画家協会) が共同で、著作権侵害を容認しない旨の声明を出しました1。後ほど軽く紹介しますが、Sora 2の騒動を受けての動きです。
GoogleのNano Banana (Gemini 2.5 Flash Image) やOpenAIのSora 2などクリエイティブ系の生成AIはアウトプットがわかりやすく目に見える分、権利侵害も目立ちやすい領域です。その文脈で「生成AIが侵害する権利とは何なのか」、「権利侵害を起こさないために何をすべきなのか。また、起こしてしまったときにどうすべきなのか」が気になったので、整理してみました。
この記事ではGoogle、AWS、Microsoftの生成AIに関する補償について理解を深めます。
免責事項
- 各節の脚注に参照元へのリンクを掲載しています。実務に反映する際は必ず原文書やベンダーの担当者へ確認し、ここで得た内容は参考情報として扱ってください。本記事を根拠とした判断・行動の結果について、筆者および所属組織は責任を負いません。
- 法律分野の専門家ではないため、法的助言を提供する立場にはありません。執筆時点で確認できた情報を客観的に整理するよう努めていますが、表現の不足や誤りにお気づきの際はコメントなどでご指摘いただけますと幸いです。
前提: 生成 AI は何を侵害し得るのか?
まず前提として、生成AIが侵害し得るのは知的財産 (IP、Intellectual Property) の権利で、代表的なものとして著作権、特許権、商標権、意匠権があります。その中でも、GoogleやAWSなどLLMプロバイダーが補償の対象としているのは、著作権に対する侵害申し立てです。後述しますが、商標権に関しては明確に補償の対象外と述べられていることもあります。
また、もう1つ前提として触れておくと、生成AIに関する著作権侵害は、対象として大きく以下の2つに分類できます。
- モデルのトレーニングに使用されるデータ
- モデルが生成、出力したコンテンツ
この記事のメインテーマは2の方ですが、この章で焦点を当てているのは1の方で、社会的にはこちらの方が大きな話題になりやすい気がします。
著作権の話に戻ります。日本の著作権法によると、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの2」であり、その具体例として、小説や脚本、音楽、舞踊や無言劇、建築、地図や図面・図表・模型、映画、写真、プログラムなどが挙げられています3。著作物の定義だけで見ると日本とアメリカで大きな違いは無さそうだったので、ここでは触れません。ただし、日本とアメリカでは考え方が違っていて、アメリカでは「フェアユース」という著作物の利用に関する例外規定があります。このフェアユースについて説明する関係で、アメリカ ⇒ 日本の順番で著作権に対する考え方と、AIに関する状況を紹介します。
著作権の考え方: アメリカ
アメリカでは著作権法の第107条にて規定されるフェアユースという制度があります4。著作物に関する特定の利用行為に対して、個別の事案ごとに、その利用が「公正」であるかを裁判所が柔軟に判断するというものです。雑にまとめると「利用が公正なら、著作物の利用を例外的に認めるよ」ということです。フェアユースは以下の4要件に基づいて判断されます。
- 利用目的とその性質 (変容性の有無)
- 著作物の性質
- 著作物全体に対して利用された量と実質性 (≒ 質)
- 潜在的市場または価値への影響
アメリカでは「生成AIの学習段階における著作物の無断使用」に対するフェアユース適用可否が裁判で争われています。私の観測範囲ではそこそこ話題だったAnthropicの件をはじめ、2025年に判決が出た事例がいくつかあったので紹介します。
トムソン・ロイターの話 (Thomson Reuters v. Ross Intelligence)
トムソン・ロイターは大手メディア「ロイター通信」を運営する会社です。私の中では「ニュースサイトを運営している会社」程度の認識だったのですが、金融や法務、税務・会計など、幅広い情報ソリューションを提供しているようで、その1つとして「Westlaw」という法律領域のサービスがあります。
トムソン・ロイターは2020年、リーガルAIスタートアップのRoss Intelligenceが「Westlaw」の著作物を不正使用したと主張し、著作権訴訟を起こしていました。今年2025年の2月11日に判決が出て、著作権侵害が認められました5。さきほど挙げた4つの要素のうち、特に「利用目的とその性質」、「潜在的市場または価値への影響」の面で、フェアユースによる例外は認められないという内容でした (かなり雑なまとめ方をしているので、詳しくは解説されている記事6をご覧ください)。
Anthropic の話 (Bartz v. Anthropic)
これは複数の作家を原告とする集団訴訟で (アメリカでは集団訴訟のことを「クラスアクション」と言うらしいです)、主に以下2つの争点があり、別々の判決が出ました。
- インターネット上の書籍データ数百万冊を海賊版サイトからコピーして保存した ⇒ フェアユースに該当しない
- 書籍データに基づいてモデルを訓練した ⇒ フェアユースに該当する
1は「許諾ナシの利用は複製権の侵害にあたる」としてフェアユースに該当せず、2は「合法的に購入した書籍なら、著作物をそのまま使うわけではないため変容的 ≒ 新たな著作物を生み出すための利用」としてフェアユースに該当するという話のようです。
なお1の件も原告の著者グループとAnthropicとの間で、15億ドルで和解が (ほぼ?) 確定したよう7です。
他にもMetaのオープンモデルLlamaの学習時における著作物の利用について、著名な作家13名が訴えを起こした件8も上記と同時期にフェアユースに該当するという判決が出ています。(主な争点となったのは「市場への影響」ですが、市場に影響がないと判断されたわけではなく、原告側の立証が不十分だったという話らしいです。興味がある方は調べてみてください。いくつかリンクを貼っておきます9)
著作権の考え方: 日本
日本には包括的なフェアユース規定が存在しませんが、2018年の法改正で導入された著作権法第30条の4がAIの学習段階に適用されます。第30条の4は「著作物に表現された思想又は感情を享受することを目的としない利用」であれば、著作権者の許諾なく著作物を利用できるとする条文です。これはデータ分析・情報解析目的の幅広い利用を想定したもので、AI開発もこの範疇に含まれると一般的に解釈されています (ただし、既存の著作物の一部または全部をそのまま出力させること、または既存著作物と類似の作品を生成させることを目的とした追加学習を行う場合 = 特定作品の再現や創作的表現の模倣自体が目的の学習は例外であったりするようです。)。このあたりについては文化庁の資料10がすごくわかりやすかったです。(ホットなトピックなので調べたら他にも色々出てきます)
記憶に新しいところではOpenAIのSora 2がポケモンやドラゴンボール風のコンテンツをバシバシ生成できるようになっていて話題になりました。結果としてサム・アルトマンが個人ブログでオプトイン方針に転換する旨の意思表明をしています11。ディズニーなど一部の映画スタジオとは事前にオプトインの交渉をしていたようですが (断られている12)、相手を選んでいるということではなく、日米の法的な考え方の違いが理由の1つとしてありそうです。(後述しますが、特定の作風を狙って出力させようとした場合、責任はユーザー側に移ります)
Google の生成 AI に関する補償「運命の共有」
やっとこの記事のメイントピックです。まずはGoogleの生成AIに関する補償について見ていきます。
Googleは2023年10月13日に、生成AIに関する補償について発表しました13。
この発表では「運命の共有 (Shared fate)」として、以下2つの領域に対する保護アプローチが紹介されています。
- トレーニングデータ
- 生成・出力されたコンテンツ
これらについて利用規約なんかも見ながら深堀りしていきます。
トレーニングデータに対する補償
これは「GeminiやImagenなどのモデルをトレーニングする際にGoogleが使用したデータ」が知的財産を侵害している旨の申し立てを受けた際に適用されます。これは適用されて当然と感じますがその通りで、その当然の補償を明文化したという意味合いが強そうです。
生成・出力されたコンテンツに対する補償
対象となる生成AIサービスの出力が、知的財産を侵害している旨の申し立てを受けた際に適用されます。これは、生成AIが著作権を侵害したコンテンツを出力し、それをユーザーが意図せず利用してしまうという懸念に応えるものです。この補償はGoogleが提供するすべての生成AI系のサービスに自動で適用されるわけではなく、それぞれ対象となるサービスと、適用対象外となり得るケースが明示されています。
対象となるサービス
大雑把に表現すると、以下すべてに当てはまる場合が対象です。
- 一般提供が開始されている
- 有償である
- Googleによって一覧化されている
一覧化されているサービスは2025/11/12時点で以下のようなものです14。(すべてではなく抜粋版です)
- Google Cloud
- 各種モデル
- Gemini
- Imagen
- Veo
- Vertex AI Search
- Gemini Enterprise (旧Agentspace)
- 各種モデル
- Google Workspace
- Gemini in Workspace
- Google Vids
補償が適用対象外となるケース
まず、前述した「一般提供が開始されているand有償であるand Googleによって一覧化されている」に該当しない場合は対象外です。つまりプレビュー版 (Pre-GA含む) のサービスやバージョン、そして無料で利用できるサービスは対象外です。例えばGeminiなどのモデルも、プレビュー版のバージョンは対象外です。また、モデルの場合はGoogle CloudがService Termsで指定した条件に合致するものである必要があります。例えばGoogle提供の事前学習済みモデルを使用せずに作成したものや、Model Gardenから使用できるオープンモデルやサードパーティーのモデルは対象外です。
また、明示的に対象外となるケースもService Termsに記載されています15。以下のような内容です。
- 権利侵害の意図があった、または侵害の可能性を認識していた
- 責任あるAI利用を助ける出典引用やフィルター、指示などを無視/無効化/変更/回避した
- 侵害申し立ての通知を受けた後も該当する出力を継続して使用した
- (著作権ではなく) 商標関連の権利の申し立てである
- 権利を持っていないデータを、モデルのトレーニングもしくは出力のカスタマイズに使用した
「権利侵害の意図があった」や「責任あるAI利用に関する色々を無視した」など、ユーザーの行動や意図に着目した文章が目立ちます。これは後ほど紹介するMicrosoftの補償とは対象的であり、補償対象であることの証明が困難な場合も少なからずありそうという想像ができます。(柔軟に見えるが、リスクでもある)
AWS、Microsoft の補償ルール
次に、AWS、Microsoftの補償について見ていきます。
AWS
ブログなどでの公式アナウンスは見つけられませんでしたが、Service Terms16 の50.10に具体的な記載があります。
対象は「Amazon」と名の付くサービスで、抜粋すると、例えば以下が記載されています。
- Amazon Novaシリーズ
- Amazon Titanシリーズ
- Amazon Q (Free Tier除く)
そして補償の対象となるためには以下が必要だと50.10.3で述べられています。
- AWSに対し、速やかに書面で請求を通知すること
- AWSによる請求防御の管理を許可すること
- 50.10で定める請求の防御および補償に対する適格性を評価するために必要な範囲で、十分な記録を保持および提供すること
- 請求の防御および和解においてAWSに合理的に協力すること
そして50.10.2では第三者から訴えがあった際に、以下に該当する場合は補償の対象外になる旨が明記されています。
- 生成AIサービスに、他者の知的財産権を侵害するインプットなどを行った
- フィルターや安全対策ツールの機能を妨害、無効化した / サービスから提供される指示を無視した
- AWSのService Termsに違反している
- 生成AIサービスに対してファインチューニングや改良、カスタマイズなどを行い、それが無ければ権利侵害が発生しなかった
- 生成AIのアウトプット使用停止通知後に訴えを受けた (おそらく、使用停止通知後も継続して権利侵害を起こす行為を続けていた場合のことを言っている)
- 生成AIのアウトプットが他者の知的財産権を侵害する可能性を知っていた / 合理的に知っているべきであった
- 商標権やそれに関連する請求である
特徴的だと思ったのは、Service Termsの50.10.1の以下記載です。(Service Terms日本語版より抜粋)
本第 50.10 条の制限に従い、AWS は、補償対象生成 AI サービスによって生成された生成 AI アウトプットが第三者の知的財産権を侵害または不正流用したと主張する第三者からの請求に対して、貴社、貴社の従業員、役員、および取締役を防御し、不利な最終判決または和解の金額を支払うものとします。
「第三者からの請求に対して防御する」、「不利な最終判決または和解の金額を支払う」といった具体的な表現があります。Google、Microsoftには見られませんでした。これに限らず50.10.2では以下の文言があるなど、非常に明快な補償条件を提供していると感じました。
本第 50.10 条に基づく AWS の防御および支払義務は、本契約に基づく損害賠償の上限の対象とはなりません。
サードパーティーのモデルについては、50.12.1で、モデルを提供する会社の規約に基づくと明言されていて、利用規約のページが別途設けられています17。
Microsoft
Microsoftは「Customer Copyright Commitment (旧Copilot Copyright Commitment)」として、生成AIからの出力に対する補償を表明しています18。
「Copilot Copyright Commitment」⇒「Customer Copyright Commitment」と名称が変わっており、そのタイミングでAzure OpenAI Serviceが対象に追加されました。以下が対象サービスの一例です。
- Microsoft 365 Copilot
- GitHub Copilot
- Azure AI Foundryモデル内のAzure OpenAI (名称変更のタイミングで追加)
前提として、対象は有料の商用サービスであり、無料サービスやコンシューマー向けのサービスは対象外です19。
また、Azure OpenAIのモデルの出力を補償の適用対象とするためには、以下のようなガードレールと緩和策を実装している必要があります20。
- 「権利侵害の可能性がある出力」の防止を意図した文章をシステムプロンプトに挿入する21
- 継続的にテスト、評価を実施し、レポートにまとめておく。侵害の申し立てがあった際はそのレポートをMicrosoftに提出する
- その他ユースケースに応じたガードレールを実装する (ドキュメントにはコード生成とテキスト生成のユースケースが載っています)
また前提として、別途定義されているMicrosoftのAIに関する包括的な行動規範22に従っている必要があります。
サードパーティーのモデルがどうなのかと、モデルのバージョンによる制約があるのかなどは読み取れませんでしたが、Azure OpenAI内でモデルが動作し、先述のガードレールと緩和策を実装すれば、Microsoft Copilot Studioで使用する際は補償の対象となる可能性があります。
まとめ: 補償を受けるために、何をしておくべきなのか
明文化されているか否かはさておき、各社とも「適切にガードレールを敷いたうえで補償対象サービスを使っているユーザー」だけを守るスタンスなので、運用側の段取りがそのまま防御線になります。利用しているクラウドに関わらず、運用上で抑えておくと良さそうなポイントを整理してみました。
- ログと評価レポートを日常的に積み上げる
- 生成AIへのインプット、アウトプット、フィルタの発火状況などをログ取得・保管することは必須として、継続的なテストと評価 ⇒ レポート化を行い、いつでもベンダーに提示できるようにします。
- ベンダー提供のガードレールを無効化しない
- 補償対象サービスとデータ権利の棚卸しを実施する
- 各社ともに補償対象となるサービスや対象外となる条件を明示しています。まずは利用しているサービス、ファインチューニングなどを行う場合はそのデータの権利関係の棚卸しをします。
- クレーム対応ランブックを整備する
- 第三者から通知を受けたら即座にアウトプットの利用を停止し、ベンダーに連絡して防御を委任、実装済みの緩和策とログを共有します。通知 ⇒ 出力停止 ⇒ 証跡提出 ⇒ 再発防止策のフローと意思決定者を事前に定義し、迅速な対応ができるよう机上演習を回しておくと、いざというときに補償の要件を満たしやすくなります。
以上をベースに、自社のユースケースとコンプライアンス要件を掛け合わせたチェックリストをつくり、四半期単位などで棚卸しする運用を回すことを推奨します。
Footnotes
-
17 U.S. Code § 107 - Limitations on exclusive rights: Fair use ↩
-
Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH et al v. ROSS Intelligence Inc. ↩
-
< AI Update > AI の学習データ利用について著作権侵害を認めた米国連邦地裁判決―Thomson Reuters v. Ross Intelligence 事件― ↩
-
Judge approves $1.5 billion copyright settlement between AI company Anthropic and authors ↩
-
Kadrey et al v. Meta Platforms, Inc., No. 3:2023cv03417 - Document 598 (N.D. Cal. 2025) ↩
-
Meta 社勝訴の Kadrey v. Meta 判決が示す AI 著作権リスクと企業が取るべき実務対応策、メタ、AI 著作権訴訟で勝訴 ── フェアユース該当も限定的 ↩
-
令和 5 年度 著作権セミナー AI と著作権、デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方(著作権法第 30 条の4,第 47 条の4及び第 47 条の5関係など ↩
-
Service Specific Terms の 19. Generative AI Services. > i. Additional Google Indemnification Obligations.をご覧ください。 ↩
-
Serverless Third-Party Models on Amazon Bedrock - End User License Agreements and Terms of Use ↩
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