エンジニアがStarlinkを使ってワーケーションをした話
Starlinkを使ったワーケーションのつもりがキャンピングカーの話になるかも
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author: Yoshio
はじめに
こんにちは、いつか種子島でロケット打ち上げを見たいなーって思っているけど、どうせ延期するだろうしフロリダ行ってSpaceX社のロケット打ち上げを待った方が確実に打ち上げの鑑賞ができるんじゃないかって、心変わりしつつあるGIクラウドのスペランカーYoshioです。H-IIAの打ち上げが成功とともに幕が下りてしまいましたね。寂しい気持ちもありますが、H3に切り替えていきましょう。
さて、みなさん。エンジニアの自己投資と聞けば、高額なAIサービスや難解な技術書を思い浮かべるでしょう。しかし僕が「これは手堅い」と確信し、選んだのは物理的なインフラ、Starlinkへの設備投資でした。
一人の天文ファンとして、Starlink衛星が他の天文ファンから顰蹙を買っている事実を知る反面、SFや宇宙技術も大好きな自分にとって、非常にワクワクするプロダクトでもあります。なんとも始末に負えない製品ですが、そういうの大好きなのでしょうがないですね。
購入に踏み切った直接のきっかけは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻と台中情勢の悪化です。電力とネットがなければ何もできない働き方に漠然とした危機感を覚えていたところに、現実が突きつけられた形となりました。今でもその考え方は変わっておらず、誰も使いこなせていないDDD1のような技術を半端に学ぶより、よほど確実なリターンがあると考えています。
前置きが長くなりましたが、せっかくStarlinkがあるのだからと、キャンピングカーをレンタルし、甲府盆地のとあるRVパークでワーケーションを敢行。「場所を選ばない働き方は、Google Cloudエンジニアでも可能か?」を検証してみました。
※ 2023年の体験記なので、今更感は否めませんが、2025年現在でも十分活用できる内容ですので、しばしお付き合いください。
概要
この記事では、Starlink(第2世代)を実際に使用して、山梨県のRVパークからGoogle Cloudを利用した業務を行った体験をレビューします。
Starlinkは、SpaceX社が展開する衛星インターネットサービスです。高度550kmの低軌道に数千機の通信衛星を配置し、地上のアンテナと通信することで、高速かつ低遅延なインターネット接続を実現します。 これにより、これまで光回線や携帯キャリアの電波が届きにくかった山間部や離島でも、安定した通信が可能になります。
本記事を通して、以下の点がわかります。
- 契約プラン「ROAM」での利用の実際
- Starlink環境下でのネットワーク品質の実際
- Google Meetでのオンライン会議や、Google Cloud Consoleを使った作業がどの程度快適に行えるか
- ワーケーションという働き方の理想と現実
逆に、以下については言及していません。
- 契約プラン「ホーム」での利用
- Starlinkの回線速度等の定量的なスペック
回線速度等が知りたい方は、starlink公式の回線速度や、有志の方々による実測値の記事を参考にしてください。
利用したStarlink(Rev3)とStarlink(Rev4)について
今回利用したのは「標準(Rev3 第2世代)」のStarlinkです。衛星を追ってモーター音を唸らせながらグリングリンとアンテナを回頭させて自動で最適な方向に向きます。アンテナの視野角が広くなった第3世代以降にはない特徴なので古参ぶれます。防塵・防水性能がIP54なのはご愛嬌。この記事の時とは別のケースで運用した際は、朝露や通り雨程度なら問題なかったんですけどね。気にはなります。僕が購入した2023年初頭はずっと半額セールが開催されていたので、ずっと半額が続くんだろうと思っていたんですけどね。いつの間にか半額セールどころか生産が終了していました。
最新の「標準(Rev4 第3世代)」はアンテナ角度の自動調整機能がついていないからか、55,000円(2025年7月現在)と第2世代にくらべて多少安くなっているようです。 導入するなら「Starlink Mini」も良い選択肢です。A4サイズに近く、重量も約1.1kgと軽量で、USB-Cでの給電にも対応している上に、WiFiルーターを内蔵しているため、ポータビリティが非常に高いです。置き場所に困るWiFiルーターを内蔵しているのは良いですね。価格も34,800円(2025年7月時点)と、導入しやすくなっています。ただ、回線はStarlink(標準)ほど強くはないので注意が必要です。僕は使ったことが無いので判断がつきませんが、4G回線スマホのテザリングでも意外とイケるなって感覚を持っている人にとっては、試してみる価値は十分あるでしょう。Redditなどの海外ニキ達の反応を見た感じ、実用に十分耐えられそうな雰囲気は感じます。
数字的な性能上は、Starlink Miniであっても、Google MeetやZoomといったオンライン会議は十分耐えられる通信性能ですので、あとは契約プランの選び方ですね。ワーケーションでの利用に適した契約プランは、移動利用に最適な「ROAM」プラン(旧RVプラン)です。 このプランは、使った月だけ支払うことができ、いつでもサービスを一時停止・再開できるため、クラウドサービスのように合理的です。 2025年現在、ROAMプランはデータ容量に応じた50GBプランと無制限プランの2つの選択肢が提供されています。Google Meetでのオンライン会議をすると仮定した場合、HD動画での利用は3.2 Mbps以上の回線が推奨されています。余裕をもって4Mbps消費したと仮定して、1時間のオンライン会議で1.5GBほど使うという見積もりになります。10GB/日使ったとしても5日は保ちます。スポットで使うのであれば、50GBプランの契約でもなんとかなるケースがほとんどでしょう。ただ、個人的には “推測するな、計測せよ”という格言の通り、現在のデータ使用状況を確認することをお勧めします。WindowsもMacもどちらも標準機能で確認できます。
色々と語りましたが、ざっくり、比較表にまとめてみました。
標準(Rev3 第2世代) | 標準(Rev4 第3世代) | Mini | |
---|---|---|---|
価格(2025年7月現在) | 55,000円 ※ 生産終了 当初は定価73,000円でした | 55,000円 | 34,800円 |
回線速度(下り) | 45~230Mbps | 45~230Mbps | 45~230Mbps ※ 比較記事を色々と見た感じ実際の 速度は標準の50-80%くらいのようです |
防塵・防水 | IP54 | IP67 | IP67 |
アンテナ | |||
その他 | ― | ― | 通信ロスト時は標準より復旧に 多少時間がかかるという説もあり |
事前準備
Starlinkの事前検証
チキン野郎の僕はStarlinkをワーケーションの実戦投入をするまえに自宅近辺で事前検証をしました。ノリノリで買ったStarlinkとはいえ、育ちの悪いエンジニアなので最初からプロダクトを信用するなんてことはしません。 市街地なので、衛星が建物の陰に隠れて接続断となることが多かったですが、接続さえすればPC2台でYouTubeを見ても特にストレスありません。
事前検証中に、お散歩中の若夫婦の旦那さんが「Starlinkだ!」って言って興味のなさそうな奥さんに熱心に説明していました。多分、同族ですね。心の中で旦那さんを応援しつつ、ドヤ顔してやりました。イキってごめんなさい。
プランBの検討
Starlinkが使えそうであることは確定したので、次はプランBの検討です。現地での実証実験中に想定外の事態が起きるというのはありがちですね。初めての利用ということも考慮し、プランBを準備しておきます。それっぽいこと言っていますが、スマホでテザリングをするだけなんですけどね。言葉にしてしまうと簡単なのですが、プランBはワーケーション実験の生命線なので通信のエリアマップで少なくとも4G回線が入ることを確認しておきます。 ついでに、4G回線のテザリングでオンラインミーティングをしても問題ないことの確認も実施。
キャンピングカーの予約
ここでやっとキャンピングカーで旅に行っても大丈夫な算段がついたので、マツダのボンゴをベースとしたキャンピングカーを予約しました。
予備電源の準備
重要です。他にも、延長コードが足りないとか電源関連は見落としがちな割に致命的なので気を付けましょう。RVパークでのワーケーションするので、あまり心配はいりませんが、備えあれば憂いなしです。
Starlink実践投入!ワーケーション体験記
移動
キャンピングカーの運転怖いよぉ。(((´ºωº`)))
高速道路怖いよぉ。(((´ºωº`)))
と、ビビり散らかしながら、現地に到着。早速Starlinkの設置と試運転をします。スマホの電波状況のチェックとテザリングも試運転しておきます。 問題なさそうなので、一杯飲んで翌日に備えます。そうだ、今日はフレーシュ・ワロンヌじゃん。(Starlink大活躍)
朝
ポガチャルの勝利を見届けた翌朝、キャンピングカーが揺れていたからか船酔いしたような感じが抜けなかったのですが、目覚ましにコーヒーを淹れて、朝靄の甲府盆地をランニングするうちに気分がスッキリ。
甲府盆地は次第に気持ちよく晴れ上がり、気分もよく朝の8時からお仕事開始! 天気がいいので、キャンピングカーの中ではなく見晴らしのいいRVパークにHelinoxチェアとトレイボーを持ち出し。コーヒーを飲みながら作業します。
このまま、仕事して、お昼ご飯はお蕎麦を食べて、17時に店仕舞いして温泉に行って地ビールをキューッとやるんや!彡(^)(^) フレックスタイム制サイコー!ワーケーションサイコーッ!
昼
,j;;;;;j,. ---一、 ` ―--‐、_ l;;;;;;
{;;;;;;ゝ T辷iフ i f'辷jァ !i;;;;; ワーケーションはゆったり働ける・・・
ヾ;;;ハ ノ .::!lリ;;r゙
`Z;i 〈.,_..,. ノ;;;;;;;;> そんなふうに考えていた時期が
,;ぇハ、 、_,.ー-、_',. ,f゙: Y;;f. 俺にもありました
~''戈ヽ `二´ r'´:::. `!
今日に限って、なぜか伸びるミーティング!
今日に限って、積みあがるPRレビュー!
今日に限って、割り込みで入る打合せ!
今日に限って、多いお客様からの質問!
みなさん、Starlinkの負荷検証へのご協力、ありがとうございます。彡()()
気付いたら19時。 あれ?なんでこんな時間に。 そういえばお昼食べてない。
夜
帰宅予定である翌日は雨になる予報だったのでStarlinkを回収。お目当てのお蕎麦どころか夕食はカップラーメンという現実への当てつけかの如くうなりを上げる8の字巻きスキル。キェーッ!
【本題】Starlink環境でのGoogle Cloud利用レビュー
さて、ここからが本題です。ワーケーションがただの場所を変えた仕事だという現実はさておき、Starlink環境でGoogle Cloudは実用に耐えられたのでしょうか。
結論から言うと、「ストレスなく業務が可能」でした。
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Google Cloud Consoleの操作: VMインスタンスの作成や停止、Cloud Storageへのファイルアップロード、IAMロールの変更など、Webコンソール上での操作は全くストレスを感じませんでした。自宅の光回線と遜色ないレスポンスです。
-
Google Meetでのオンライン会議: 映像ありの会議でも、ほとんど問題なく参加できました。ただし、1時間に1回程度、数秒間の遅延や音声の途切れが発生する瞬間がありました。おそらく、アンテナと衛星の通信が遮蔽物などで一瞬途切れたものと思われます。すぐに復帰するため会議の進行に大きな支障はありませんでしたが、重要なプレゼンの最中などはヒヤッとするかもしれません。
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gcloudコマンドやSSH接続: ターミナルからの
gcloud
コマンドの実行や、IAP経由でのVMインスタンスへのSSH接続もスムーズでした。試していないですが、ログをtail -f
で追いかけるような場面も、おそらく耐えられるでしょう。
総じて、Starlinkはクラウドエンジニアがリモートワークを実施するのに十分なネットワーク環境を提供できると言えます。
結論とワーケーションの現実
ワーケーションは単なる仕事ですね。気分転換にはいいですが、ガッツリ仕事することになるので過度な期待しない方が良いです。ほら、大谷さんだって「憧れるのをやめましょう」って言ってたでしょ?
さて、Starlinkを実際に使ってみた感想ですが、非常に良いプロダクトです。ビデオありのオンラインミーティングもほぼ問題なくこなせる通信品質は、大きな魅力です。
ただし、この “電波が入る開けた場所” という条件は重要な制約です。 例えば山林のキャンプ地だったり、白樺の森に囲まれたオシャレなコテージだったりすると、思ったように使えない可能性があります。
Rev4第3世代やMiniはアンテナを手動で調整する必要があるので、心配であれば自動調整機構の備わっているRev3第2世代を敢えて選択しても良いでしょう。ただ、Rev3第2世代は生産終了しているため、店頭在庫限りです。とはいえ、Redditなどで海外在住の方のMiniの使用感とかを眺めた感じ、焦ってRev3第2世代を選択する必要はなさそうだとは思っています。まぁ、また聞きレベルの個人の感想ですけどね。
それと、キャンピングカー内で仕事するのは要注意です。車体が揺れて酔います。あと、個人の嗜好ですが、キャンピングカーという車両は足回りが柔らかすぎて好きになれなかったです。多少柔らかいくらいだったらいいんだけど、フワフワするのはいただけないですね。まぁ、足回りどころかハンドルもアクセルもフニャフニャでドライブ感がまるで得られない某αなミニバンよりは多少はマシです。(これも個人の感想です)
余談ですが、auからは「Starlink Direct」という、スマホとStarlinkを直接通信するサービスが提供されています。Android端末ならGeminiが使えるらしいですが、SMSなどのテキストメッセージが中心のサービスです。 緊急時の連絡手段としては心強いですが、Starlinkアンテナを利用するサービスとは別物です。どこかの僕のように過度な期待を寄せないようにしましょう。
まとめ
今回のワーケーション検証を通して、Starlinkが提供する通信環境は、Google Cloudを利用した開発業務に十分耐えうることが確認できました。不安定なネットワーク環境を心配することなく、どこでも仕事ができるというのは、エンジニアにとって大きな武器になるでしょう。
もちろん、ワーケーションには「結局どこでやっても仕事は仕事」という現実も伴いますが、それを差し引いても、働く場所を自由に選択できる可能性を物理的に担保してくれるStarlinkは、非常に価値のある投資であったと感じています。
もし、Starlinkの導入を検討しようかなという方がいらしたら、ぜひ英語圏のリソースにも情報収集の範囲を広げてみてください。今は翻訳機能も充実していますし、性能やユースケースを敢えて日本語だけに限定する必要はありません。
以上、ワーケーションの現場からでした。
Footnotes
-
DDDのパターンカタログ通りに実装ができる人は非常に多い反面、適切にエンティティを抽出できる人がどれだけいるのかっていうと疑問。 ↩
※本記事は、ジーアイクラウド株式会社の見解を述べたものであり、必要な調査・検討は行っているものの必ずしもその正確性や真実性を保証するものではありません。
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