効果的なプロンプト設計ガイド(Part 2)
この記事では、ペルソナ(役割)指定 / 出力フォーマットと制約 / コンテキスト付加 / プレフィックス&タグ構造化の4手法を、具体例とともに実践的に解説します。
Table of contents
author: segcp
Introduction
本記事(Part 2)は『効果的なプロンプト設計ガイド Part 1』の続編です。Part 1で扱った基礎(簡潔さ、具体性、タスク分割、システム指示、例示など)を前提に、次の4つの実践テクニックを解説します。①ペルソナ(役割)の割り当て、②出力フォーマットと制約の明示、③コンテキスト情報の付加、④プレフィックス/タグによる構造化。各セクションでは狙いと使いどころを示し、避けるべき例/おすすめの例で具体化、Google Colabで実行できる検証コードも用意しています。
1. ペルソナ(役割)の割り当て
解説
冒頭で「あなたは◯◯です」と役割を指定すると、モデルの視点・専門度・文体が安定します。特に次の点を意図どおりに誘導できます。
- 文体の統一:フォーマル/カジュアル/技術的などのトーンが揃う。
- 領域への集中:専門ロール(例:データサイエンティスト、法務アドバイザー)により、用語や推論の方向性が適切になる。
- 状況の枠づけ:その役割に立って説明するため、抽象的・汎用的な回答が減る。
ユースケース例
- カスタマーサポート:あなたは上級Google Cloudのサポートエンジニアです。
- 文章編集:あなたは日本語の校正者です。
- 技術文書:あなたはシニアDevOpsのアーキテクトです。
- 企画・マーケ:あなたはGoogle Cloudに強いマーケティングストラテジストです。
避けるべき例 / おすすめの例
❌ 避けるべき例 | ✅ おすすめの例 |
---|---|
地震を説明してください。 | あなたは小学校の理科の先生です。地震の仕組みを10歳向けに、30文字以内×3つの箇条書きで説明してください。難しい用語は使わないでください。 |
ホットケーキの作り方を教えてください。 |
あなたは家庭料理の先生です。次の材料だけを使って工程を5ステップ、各ステップ1文で示してください。 材料:ホットケーキミックス200g、卵1個、牛乳150ml、油少量 |
2. 出力フォーマットと制約の明示
解説
出力の構造をJSONやMarkdownなどに固定し、長さや禁止事項を明記すると、後段の自動処理やレビューが容易になります。意図どおりの出力に近づけるポイントは次のとおりです。
- 構造の一貫性:キー名・見出し・列構成を事前に指定する。
- 長さの制御:トークン/文字数を上限設定して冗長化を防ぐ。
- 内容フィルタ:機微情報や不要トピックを禁止する。
- 検証しやすさ:スキーマ検証を前提にした形式にする。
さらに、本番運用ではプロンプトだけに頼らず、API側で出力のスキーマを固定する方法も有効です。Vertex AIでは応答のMIMEタイプ(例:application/json)とレスポンス用スキーマを設定でき、モデルはその設計図に沿って応答します。これにより、常にパース可能なJSONを受け取りやすく、またラベルを所定の集合(例:positive|neutral|negative)に限定する、といった制御もシンプルになります。
ユースケース例
- API 連携:システムがJSON/CSVを前提にしている。
- サポートチケットのトリアージ:重大度・製品領域・再現手順などの項目を定型化したい。
- データパイプライン:自動化ワークフローに渡す前提で構造化したい。
避けるべき例 / おすすめの例
❌避けるべき例 | ✅おすすめの例 |
---|---|
会議を要約してください。 |
以下の会議を要約してください。JSONのみで返答してください。スキーマは以下のとおりです。追加キーは禁止、200文字以内、値は会話から抽出してください。
|
会話をJSONにしてください。 |
以下の会話をJSONにしてください。JSONのみで返答してください。以下のキー・型で返し、追加キーは禁止。日本語の説明文は出力しないこと。
|
3. コンテキスト情報の付加
解説
メトリクス・直近イベント・ユーザープロファイルなどの具体的な背景情報を合わせて提示すると、回答が事実に根ざし、場面に即したものになります。効果は次のとおりです。
- データによる根拠付け:数値や要約を示すことで、事実関係が明確になる。
- シナリオの明確化:目標・前提・環境を含めると、解答範囲が適切に絞られる。
- 関連度で絞り込む:高シグナルの情報のみを残し、不要情報を削る(トークン節約)。
ユースケース例
- 回答を実数値(KPI・ログ・チケット等)に基づかせたい。
- 最新情報やユーザー固有の条件(例:最新の利用状況、サブスクリプション階層、ロケール)に依存する。
- 製品/バージョン/ポリシー単位に範囲を絞って矛盾を避けたい。
- 情報源が長文で、要点だけ圧縮して注入したい。
避けるべき例 / おすすめの例
❌避けるべき例 | ✅おすすめの例 |
---|---|
洋服店の成長戦略を提案してください。 |
洋服店の月間新規来店5,000人、会員登録率15%、メンバー特典利用率20%を前提に、会員登録率を25%へ高める施策を3つ提案してください。 |
FAQを作ってください。 |
次のサポートチケット(ticket1: ログイン不可 / ticket2: 請求エラー)を踏まえ、該当課題に直結するFAQを3件作成してください。 |
4. プレフィックス/タグによる構造化
解説
長めのプロンプトやテンプレートでは、指示(INSTRUCTIONS)/背景(CONTEXT)/課題(TASK)/制約(CONSTRAINTS)/出力形式(OUTPUT_FORMAT) などを明示的なタグで区切ると、人間にもモデルにも読みやすくなります。利点は次のとおりです。
- テンプレート再利用:区画単位で差し替えが容易。
- デバッグ容易:誤った指示や不足を見つけやすい。
- 共同編集:担当者ごとに該当区画だけ更新できる。
ユースケース例
- 長文プロンプトで、指示・背景・出力形式が混在して誤解が生じやすいとき。
- チームでテンプレートを共有・差し替え・レビューしたいとき(運用の標準化を進めたい)。
- 生成結果の一貫性を高め、後工程の自動検証(JSONなど)をしやすくしたいとき。
- 複雑タスクで、段階ごとの役割や制約を明示して迷走を防ぎたいとき。
避けるべき例 / おすすめの例
❌避けるべき例 | ✅おすすめの例 |
---|---|
3日間の旅行プランを考えてください。 |
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1週間の献立を考えてください。 |
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実際に試してみましょう
Part1と同様に、この記事でもプロンプトをその場で検証できるPythonコードを用意しています。以下のセルを順に実行することで、本記事で紹介した4つの手法を検証できます。必要に応じてロールやフォーマット、データを差し替えて活用してください。
① 必要なパッケージをインストール
import subprocess
import sys
import importlib.util
def ensure_package(pkg: str):
if importlib.util.find_spec(pkg) is None:
subprocess.check_call([sys.executable, "-m", "pip", "install", "-q", pkg])
for p in ("google-genai", "ipython"):
ensure_package(p)
② Colab認証
if "google.colab" in sys.modules:
from google.colab import auth
auth.authenticate_user()
③ プロジェクト設定(Vertex AI)
import os
from google import genai
from google.genai.types import GenerateContentConfig
PROJECT_ID = os.getenv("GOOGLE_CLOUD_PROJECT") or "my-gcp-project"
if PROJECT_ID in ("", "my-gcp-project", "[your-project-id]"):
raise EnvironmentError(
"⚠️ PROJECT_ID が未設定です。\n"
" ▶ 環境変数 GOOGLE_CLOUD_PROJECT をセットするか\n"
" ▶ ソースコード内の PROJECT_ID を自分の Project ID に書き換えてください。"
)
REGION = os.getenv("VERTEX_REGION") or "us-east1"
client = genai.Client(vertexai=True, project=PROJECT_ID, location=REGION)
models = client.models
④ プロンプト実行用の関数
from IPython.display import Markdown, display
def run_prompt(
prompt: str,
model_id: str = "gemini-2.0-flash-001",
temperature: float = 0.0,
max_output_tokens: int = 300,
):
if not isinstance(prompt, str) or not prompt.strip():
raise ValueError("prompt は空ではいけません。文字列を渡してください。")
config = GenerateContentConfig(
temperature=temperature,
max_output_tokens=max_output_tokens,
)
result = models.generate_content(model=model_id, contents=prompt, config=config)
text = getattr(result, "text", str(result))
try:
display(Markdown(f"### ✨ 結果\n\n{text}"))
except Exception:
print("\n=== 結果 ===\n", text)
⑤ 4つの手法を試す
ペルソナの割り当て
persona_prompt = "あなたは小学校の理科の先生です。地震の仕組みを10歳向けに、30文字以内×3つの箇条書きで説明してください。難しい用語は使わないでください。"
run_prompt(persona_prompt, temperature=0.2, max_output_tokens=400)
出力フォーマットと制約の明示
json_only_prompt = """
以下の会議を要約してください。JSONのみで返答してください。スキーマは以下のとおりです。追加キーは禁止、値は会話から抽出してください。
{
"summary": {
"topic": "string",
"attendees": ["string"],
"decisions": ["string"],
"action_items": [
{ "task": "string", "owner": "string", "due": "string" }
]
}
}
<TRANSCRIPT>
話者1(クライアント):新しいホームページのデザインは良いと思いますが、「お問い合わせ」ボタンの色を青に変更したいです。
話者2(デザイナー):ボタンの色は青に更新します。見出しのフォントサイズも変更しますか?
話者1(クライアント):はい、お願いします。見出しの文字を少し大きく、24px程度にしてください。
話者3(デベロッパー):デザインが確定したら、ホームページのコードを更新します。
話者2(デザイナー):ええと、変更は9月24日まで準備できます。
話者1(クライアント):了解です。ありがとうございます。また、新しいデザインが9月27日までにモバイル対応になっていることも確認しましょう。
</TRANSCRIPT>
"""
run_prompt(json_only_prompt, temperature=0.1, max_output_tokens=300)
API側で出力のスキーマと形式を指定する
from google import genai
from google.genai.types import GenerateContentConfig, HttpOptions
# HttpOptionsでAPIバージョンを明示(既存のPROJECT_ID/REGIONを再利用)
client_http = genai.Client(
vertexai=True,
project=PROJECT_ID,
location=REGION,
http_options=HttpOptions(api_version="v1"),
)
models_http = client_http.models
# JSONの期待形(週末アクティビティの配列) - dictでスキーマを定義
weekend_activity_schema = {
"type": "ARRAY",
"items": {
"type": "OBJECT",
"properties": {
"idea": {"type": "STRING"},
"indoor": {"type": "BOOLEAN"},
"cost_level": {"type": "STRING", "enum": ["low", "medium", "high"]},
},
"required": ["idea", "indoor", "cost_level"],
},
}
def run_prompt_structured(
prompt: str,
model_id: str = "gemini-2.0-flash-001",
response_schema=weekend_activity_schema,
response_mime_type: str = "application/json",
temperature: float = 0.1,
max_output_tokens: int = 400,
):
cfg = GenerateContentConfig(
temperature=temperature,
max_output_tokens=max_output_tokens,
response_mime_type=response_mime_type,
response_schema=response_schema,
)
response = models_http.generate_content(
model=model_id,
contents=prompt,
config=cfg,
)
text = getattr(response, "text", str(response))
print("✨ 結果(構造化出力)")
print(text)
structured_prompt = (
"家族向けの週末アクティビティを3つ提案してください。"
"各案は 'idea'(内容), 'indoor'(屋内ならtrue), 'cost_level'('low'|'medium'|'high')のみを含めてください。"
)
run_prompt_structured(structured_prompt)
コンテキスト情報の付加
context_prompt = ("洋服店の月間新規来店5,000人、会員登録率15%、メンバー特典利用率20%を前提に、会員登録率を25%へ高める施策を3つ提案してください。")
run_prompt(context_prompt, temperature=0.1, max_output_tokens=300)
プレフィックス/タグ
prefixed_prompt = """
<INSTRUCTIONS>
あなたは旅行プランナーです。回答は「day: 1」の後に改行を入れ、その後「午前:」などの各セクションの前にも改行を入れてください。
</INSTRUCTIONS>
<CONTEXT>
参加者:大人2名
目的地:沖縄
期間:2025年8月4日 〜 8月6日(3日間)
興味:ビーチ、シュノーケリング、郷土料理
予算:100,000円(目安)
</CONTEXT>
<TASK>
午前/午後/夜の3ブロックで、3日分の行程を作成してください。
</TASK>
<CONSTRAINTS>
1日あたりの歩数は20,000歩以内。混雑のピーク時間帯は避けること。
</CONSTRAINTS>
<OUTPUT_FORMAT>
day: 1 | 2 | 3
午前: ...
午後: ...
夜: ...
メモ: ...
</OUTPUT_FORMAT>
"""
run_prompt(prefixed_prompt, temperature=0.4, max_output_tokens=500)
まとめ
プロンプト設計の精度は、ペルソナ(役割)の割り当て・出力フォーマットと制約の明示・コンテキスト情報の付加・プレフィックス/タグによる構造化の4点で向上します。この記事では、実務でそのまま使える書き方と「避けるべき例/おすすめの例」を提示し、Colabで検証できる手順も用意しました。実案件に合わせて小さく調整し、再現性と一貫性を指標に継続的に改善していきましょう。
参考
https://ai.google.dev/gemini-api/docs/prompting-strategies
https://cloud.google.com/vertex-ai/generative-ai/docs/learn/prompts/prompt-design-strategies
https://cloud.google.com/vertex-ai/generative-ai/docs/multimodal/control-generated-output
https://cloud.google.com/vertex-ai/generative-ai/docs/learn/prompts/introduction-prompt-design
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