AgentSpaceがもたらす開発現場の変革
AgentSpaceがITエンジニアの働き方をどう変えるのか?社内データの横断検索、AIエージェントによる業務効率化など、AgentSpaceの主要機能、具体的な活用シナリオ、導入のポイントを解説
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author: kuribo-
はじめに
インフラチームのkuribo-です。
Google Cloudが提供する新しいSaaSプラットフォーム「AgentSpace」について、特にITエンジニアの視点からその概要、主要機能、そして私たちの働き方にどのような変化をもたらす可能性があるかを解説します。
日々の業務で以下のようなことはありますか?
- 「あの情報、どこにあるんだっけ…?」と検索に時間を溶かしている
- チームや組織のナレッジがうまく共有されず、属人化してしまっている
- もっと開発に集中したいのに、周辺業務に追われている
といった課題を感じているエンジニアに、AgentSpaceが解決の一助となるといいなと、そんな期待を込めてまとめてみました。
本記事は、弊社内で最初にAgentSpaceを試している私の独断と偏見?で構成されています。
こんな課題はありますか?
「あのAPIの仕様書、どこにあったっけ?」
「このエラー、前に誰か解決してなかったかな?Confluence?Jira?Slack?」
「似たような機能を前に作った気がするんだけど、コードどこだっけ…」
こんな経験、一度や二度ではないですよね?
情報が散在しすぎて、本当にやりたい開発作業になかなか集中できないというのはよくある話ですよね。
そんな時Google Cloudから「AgentSpace」というサービスが登場しました。
これがもしかしたら我々の働き方を大きく変えるサービスになる可能性があります。
今回は、このAgentSpaceが何者で、エンジニアにとってどんなメリットがありそうかを少し深掘りしてみます。
Google Cloud AgentSpaceとは?
AgentSpaceは「仕事のために構築された検索とAIエージェントのハブ」。
平たく言うと、社内に散らばる様々なデータソース(Google Drive、SharePoint、Salesforce、Jira、Confluence、Slack、Teams、Github、Gitlabなど)を横断的に、Google検索のような感じで検索できるようにします。
さらにAIエージェントを使って検索したデータをごにょごにょしていい感じにしちゃうSaaSプラットフォームです。なんか凄いですね?
裏側ではVertex AIをはじめとするGoogle CloudのAI/ML技術が動いていると推測されます。
また、Google Cloud上に構築するのでGoogle Cloudの諸々のサービスとの接続やインフラ周りの設定なども今までのノウハウがそのまま活かせそうです。
AgentSpaceの注目すべき主要機能
1. 統合エンタープライズ検索
まず注目すべきは検索能力です。
- 接続先の豊富さ: Confluence、Jira、Google Drive、SharePointといったドキュメント管理ツールはもちろん、SlackやTeamsのようなコミュニケーションツール、SalesforceのようなCRM、GithubやGitlabなどのコード管理ツール、BigQueryやCloudSQLなどのデータベースまで、主要なエンタープライズアプリやデータソースとの接続が可能です。
情報がどこにあろうと、まとめて検索できるのは凄いです。 - マルチモーダル検索: テキストだけでなく、画像、図表、動画、音声といった様々な形式の情報を理解して検索結果に含めてくれます。
設計書のスクリーンショットや、ミーティングの録画データから関連情報が見つかる未来も案外すぐに来そうですね。 - Googleのノウハウが詰まった検索: 単なるキーワードマッチングに留まらず、セマンティック検索(意味検索)やナレッジグラフを活用。つまり、入力したキーワードそのものが含まれていなくても、文脈や関連性から「これじゃない?」と提示してくれます。
これにより、ドキュメント検索、過去の障害対応事例の調査、再利用可能なコードスニペットの発見などができる可能性が高まります。
2. AIエージェント
AIエージェントは、ユーザーの指示に基づいて計画・推論し、タスクを実行するソフトウェアシステムです。
AgentSpaceは検索機能に加えて、これらのAIエージェント機能も提供し、検索結果を元にした多様なアクションを可能にします。
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検索結果に基づくアクション実行:
- 単に情報を見つけるだけでなく、その情報を使って具体的なアクションを実行できます。例えば、検索で見つけたドキュメントを要約したり、関連データの分析が可能です。
- メール送信、会議設定、接続しているエンタープライズアプリケーション(タスク管理ツールなど)の更新といった定型的な作業をAIエージェントに任せることで、業務の効率化が期待できます。
(現状ではGmail、Google Calendar、Outlook、Jiraなどをアクションとして定義できます)
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カスタムAIエージェントとの連携による高度な機能拡張:
- 自身で開発した、あるいは特定の業務に特化したAIエージェントとの連携が可能です。特に、Google Cloudの強力な会話型AIプラットフォームであるDialogflow CXで構築した高度なFAQボットや業務プロセス自動化エージェントを組み込むことができます。
- これにより、社内ナレッジ検索の結果をトリガーとして、より複雑な対話処理や多段階のタスク実行など、企業独自のニーズに合わせたインテリジェントな自動化を実現できます。
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開発と連携の柔軟性(今後の期待含む):
- Dialogflow CXを活用したエージェント開発は、自社で行うことにより細やかなカスタマイズが可能になります。
- 将来的には、より多くのサードパーティ製ツールやサービスとの標準コネクタが充実することで、開発の負担を軽減しつつ、さらに多様なシステム連携や機能拡張が容易になることが期待されます(例えば、現在ベータ版として提供されているサードパーティコネクタの正式リリースなどが待たれます)。
3. 社内データとのシームレスな接続性と統合
- ユニバーサルコネクティビティ: クラウドネイティブなシステムから、オンプレのレガシーシステム、ファイル共有まで、様々なエンタープライズシステムに接続できます。
- 構造化・非構造化データ対応: ドキュメントやメールのような非構造化データと、DBのテーブルのような構造化データの両方を扱えます。
- Blended RAG (Retrieval Augmented Generation): 生成AIの回答を、インターネット上の一般的な知識と、社内の複数のデータソースに基づいてグラウンディングさせる技術です。これによりハルシネーションを抑制し、信頼性の高いアウトプットが期待できます。
- 例えば、Google Driveに保存されている社内のAPIドキュメントや技術仕様書と、Githubに保存されているソースコードを読み込ませて、技術的な質問応答システムを構築するAIアシスタントなどが実現できる可能性があります。
4. セキュリティとパーソナライゼーション
この辺りは現在調査をしなければいけないと思っている範囲です。
ただ、Google Cloudの中にあるサービスなのでAgentSpaceについてはある程度のセキュリティ設定等々が行えることが予想されます。
現在判明している範囲では、IAMによる制御が行えることはわかっています。
この他にVPC Service ControlによるIP制限や、SCCなどによる脆弱性検知、組織ポリシーなどによるリージョン制限などが出来るのかが今後確認していく課題です。
サードパーティ製品とのセキュリティやパーソナライゼーションについてはこれから検証していきます。
AgentSpace活用シナリオ(妄想)
ITエンジニアの活用イメージはこんな感じでしょうか。
- 既存コード/ドキュメント検索の効率化:「以前のプロジェクトで作成した設計書や実装したコード、他のプロジェクトで実装している似たようなコードはどんなものがあるかな?」→ AgentSpaceで横断検索し、関連コードや設計書を一発表示。利用する機会が多いなら再利用しやすいようにコード管理しよう!
- 障害調査の迅速化: 過去の類似インシデントのチケット (Jira)、関連するアラートログ (Gmail)、チャットでのやり取り (Slack) などを横断的に検索し、原因究明と解決までの時間を短縮。→ Gmailの場合は自身しか見られないので、他のメンバーも見られるように対応した内容をConfluenceなどにまとめておこう!
- 技術QAの自動化: 社内の技術ドキュメントやWikiを学習させたAIエージェントが、開発者からのよくある質問に自動応答。→ AgentSpaceが提供するAPIを活用し、SlackBotと連携することでSlackからAIエージェントを便利に呼び出しちゃおう!
- コードレビュー支援: ベストプラクティスや社内コーディング規約を学習したAIが、コードレビュー時に潜在的な問題点を指摘。→ CI/CDでAgentSpaceを呼び出して、社内のコーディング規約や社内のコード、一般論の良いコードを参考にレビューしてもらおう!
導入のポイントと注意点
導入は、Google Cloud Consoleから比較的簡単に行えます。
※ただし、AgentSpaceを使うにはライセンスが必要です。ライセンスの販売はライセンス販売を許可されたGoogleのパートナー企業へご相談ください。
- GCPプロジェクト、請求先アカウント、必要なAPI (Vertex AI, Agentspace Enterpriseなど) の有効化。
- データソースの接続: ファーストパーティ(Googleのサービス)(BigQuery, GCS, GWS)や、サードパーティ(Jira, Salesforce等)のデータソースを作成。
- AgentSpaceアプリを作成し、データストアに接続。
- AgentSpaceのエージェントを利用。
AgentSpaceには2つのライセンスがあり、AgentSpace EnterpriseとAgentSpace Enterprise Plusがあります。
Plusの方が料金は高くなりますが、AgentSpaceアプリにエージェント機能を足せます。
ただし、重要なのは「入力データの質」です。
AgentSpaceの検索精度やAIエージェントの性能は、接続するデータの質と構成に大きく依存します。
「Garbage In, Garbage Out」の考え方はとても大事です。
導入前のデータガバナンスやアクセス制御、データクレンジングの検討は必ず行う必要があります。
この辺りは、我々のようなSIerの出番ですね!(宣伝)
エンジニアの働き方をどう変える?
このツールが浸透すれば以下のような変化が考えられます。
- 情報検索時間の劇的削減: 本来の開発業務により多くの時間を割けるようになる。
- ナレッジの民主化と属人化の解消: 特定の人しか知らない情報がなくなり、チーム全体の知識レベルが向上する。
- 反復作業からの解放: AIエージェントによる自動化で、より創造的な業務に集中できる。
- オンボーディングの効率化: 新メンバーがキャッチアップしやすくなる。
といった効果が期待できそうです。
AgentSpaceの今後
Google Cloud Next ‘25などでも発表があったように、AgentSpaceの開発は活発です。
今後は他社も同じようなサービスを出してきて追随してくるので、Googleだけでなく各社活発になり競争が激化しそうです。
Googleらしさのある今後の機能追加や展望はこんなことが考えられますね。
- Google Chromeとの統合: ブラウザから直接情報検索できるようになる。
- Androidとの統合: AndroidのAIエージェントがGeminiになりましたが、AgentSpaceも呼び出せるようになるかも?
- Agent Gallery: エージェントのエコシステムを拡大させる。
- Agent2Agent (A2A) プロトコル: 異なるエージェント間の連携をできるようにする。
Googleが単なる自社ツールに留まらず、広範なAIエージェントエコシステムを構築しようとしている意志が感じられます。これはエンジニアにとっても非常にワクワクする動きですね。
おわりに
今回は、Google Cloud AgentSpaceがエンジニアの開発生産性やナレッジ共有にどのような影響を与える可能性があるのか、概要と主要機能、そして期待されるユースケースを中心に見てきました。
情報が爆発的に増え続ける現代において、必要な情報に素早くアクセスし、それを活用する能力はますます重要になっています。AgentSpaceのようなツールは、まさにその課題に対する強力なソリューションとなり得るでしょう。
もちろん、新しいツールを導入する際には、既存のワークフローへの影響や学習コストなども考慮する必要があります。しかし、それらを乗り越えた先には、より創造的で効率的な開発体験が待っているでしょう。
技術の進歩は非常に速いため、今後もAgentSpaceの動向には注目していきます。
参考
※本記事は、ジーアイクラウド株式会社の見解を述べたものであり、必要な調査・検討は行っているものの必ずしもその正確性や真実性を保証するものではありません。
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