システムアーキテクト受験記
IPAが実施するシステムアーキテクト試験の概要を理解し、求められるスキルセットを確認する
Table of contents
author: kwgc-t
IPA が実施する試験の概要
全体像
図1.
引用:IPA 試験区分一覧
IPAの試験は図1のように区分けされています。レベル1〜レベル4で表現されています。
レベル | 図の背景色 | 概要 |
---|---|---|
1 | 紫 | 職業人及びこれから職業人となるべき者が備えておくべき共通的で基礎的な知識を持っていること |
2 | 黄 | IT を活用したサービス,製品,システム及びソフトウェアを作る人材に必要な基本的知識・技能をもち,実践的な活用能力を身に付けていること |
3 | 緑 | IT を活用したサービス,製品,システム及びソフトウェアを作る人材に必要な応用的知識・技能をもち,高度 IT 人材としての方向性を確立していること |
4 | 赤 | 高度 IT 人材として確立した専門分野をもち固有技術の専門家として,情報システムの企画・要件定義・開発・運用・保守への技術支援を行うこと |
システムアーキテクト試験とは
IPAが実施するシステムアーキテクト試験は、レベル4に分類されます。情報システムの設計や開発を主導する高度なIT技術者を認定するための国家試験です。システム全体の構造設計、要件定義、システム方式設計など、システム開発の上流工程における中核的な役割を担う能力が問われます。
試験は午前Ⅰ・午前Ⅱ・午後Ⅰ・午後Ⅱの4つの区分からなり、午前は多肢選択式、午後は記述式と論述式で回答する問題が出題されます。情報システムに関する幅広い知識と、問題を分析し最適な解決策を導き出す能力が求められます。
試験要項・シラバス
試験要項
システムアーキテクトとしての対象者像や担うべき業務と役割、期待する技術水準がIPAより提示されています。
これらの水準を満たすかどうかを定量的に試験を通して計測します。
対象者像や担うべき業務と役割、期待する技術水準については以下を参照ください。
試験要項の詳細は以下を参照ください。
シラバス
シラバスは非常に広い範囲で設定されています。
システムの企画から開発、運用保守に至るまで幅広い範囲から出題されます。プロジェクトのRFPの作成、システムへの要求分析および要件定義からテストまで、システムの安定稼働のための運用保守といったソフトウェア開発のライフサイクル全般が含まれます。
また、一見システムとは無関係かと思われる業務知識に関わる問題も出題されます。例えば以下のようにシステム開発とは無関係な問題です。
問15 WTO政府調達協定の説明はどれか。
- ア:EU市場で扱われる電気・電子部品,医療機器などにおいて,一定基準値を超える特定有害物質(鉛,カドミウム,六価クロム,水銀など6物質)の使用を規制することを定めたものである。
- イ:国などの公的機関が率先して,環境物品等(環境負荷低減に資する製品やサービス)の調達を推進し,環境物品等への需要の転換を促進するために必要な事項を定めたものである。
- ウ:政府機関などによる物品・サービスの調達において,締約国に対する市場開放を進めて国際的な競争の機会を増大させるとともに,苦情申立て,協議及び紛争解決に関する実効的な手続きを定めたものである。
- エ:締約国に対して,工業所有権の保護に関するパリ条約や,著作権の保護に関するベルヌ条約などの主要条項を遵守することを義務付けるとともに,知的財産権保護のための最恵国待遇などを定めたものである。
シラバスの詳細は以下を参照ください。
受験記
受験の動機
受験しようと思ったきっかけ
あまり明示的なきっかけというのはないのですが、単純に知見をつけるためというのが一番のモチベーションだった気がします。
名前がかっこいい気がするというのと、論述での回答をする高度試験(プロジェクトマネージャー、ITストラテジスト、システム監査技術者、ITサービスマネージャ)の登竜門的な試験と言われているのもあります。
仕事での必要性
正直なところ、仕事ではそんなに必要なシーンは限定されると考えています。IPAが実施する試験は国家試験ではありますが、国家資格ではなく独占業務もないので業務上必須にはなりません。ただ、試験を通して得た体系的な知識は役に立つなと感じています。
試験準備
使用した教材や学習方法
主に書籍を利用して学習しました。重点的に学習したのは午前IIの専門知識試験と午後IIの論述試験です。(午前Iは免除を受けていたため)
午前II学習
IPAの試験でありがちなのですが、過去問が大体2〜3割程度出ます。類似問題から選択肢まで全く同じものが出たりします…(これは改善したほうがよいのでは?とは感じます)
なので、過去問を多く解きました。といっても大体3年分くらいで絶対数は多くはありません。全部で75問程度です。これにプラスして、わからなかった問題や知らない用語を調べたり深掘りしたりしました。過去問も出ますが、新しい問題も出てくるので新しい用語や技術の調査、理解はしたほうがよいです。試験が終わった後にもつながります。
午後II学習
午後IIは論述試験です。2時間という制限時間の中で与えられた問題から約3,000文字を手書きで書ききらなければなりません。
問の選択肢が2つ、問の中に設問が3つあり、それぞれお題が与えられるのでお題に従って書いていきます。問は2つ与えられますが、そのうちの1つを選択します。
午後IIの学習を通じて身につけるべき力は以下だと考えています。
- 論述の構成力
- 3,000文字の論述を矛盾なく書き上げるための記述力
構成力とは、論述を書くにあたって設問を跨いで一貫性を持たせた章立て、目次を作成する力です。
例えば筆者は令和6年度の午後IIは問2を選択しました。問2の設問は以下が示されました。
- 設問ア.あなたが携わったバッチ処理の設計について、対象とする業務と情報システムの概要、および業務上の特性や制約について、800字以内で述べよ。
- 設問イ.設問アで述べたバッチ処理について、どのような課題があったか。その課題を解決するために、どのような設計をしたか。工夫した点を中心に800字以上1,600字以内で具体的に述べよ。
- 設問ウ.設問アで述べたバッチ処理で、エラーが発生しても処理を継続させるようにするために、どのような仕組みを組み込んだか。そのように設計した理由とともに、600字以上1,200字以内で具体的に述べよ。
このような設問があった時、設問アで業務上の特性や制約を述べますが、設問イでその特性や制約を考慮していない、もしくは矛盾している、またはここまでに言及されていない新たな特性や制約が出てくるといった論述にならないようにしたり、全体を上から順番に読んでいってスムーズに内容が飲み込めるような構成に落とし込む力が構成力です。
論述を書き上げるための記述力とはまさにそのままです。文章を書き切る力、詳細な言い回しや表現を使える力です。
構成した論述を詳細に落とし込む際には、細かな文言の言い回しや表現に注意し、読みやすく伝わりやすい文章にすることが重要です。
もう1点は、とにかく手書きに慣れることです。ITエンジニアは普段、手書きで長文を書く機会が少ないため、しっかりと練習しておかないと、漢字が書けない、あるいは書く速度が遅くて時間が足りなくなるといった事態に陥りかねません。
筆者はとにかくたくさん書きました。5回分は論述対策をしました。
利用した書籍
試験当日
当日の朝
高度試験は受験者が少ないので会場も遠いことが多いです。筆者は今回も自宅から比較的遠い会場に割り当てられてしまいました。
IPAの試験は電車遅延などの事情は汲んでくれないので少し早めに到着するのがいいでしょう。入退室時間に制限があるので、せっかく会場に向かっても遅刻で受験ができないということにならないようにするためです。
時間配分や問題の難易度
試験会場には大体時計があります。筆者が受験した会場で時計がないことはありませんでした。とはいえ、時計があっても試験管の腕時計が正になるのであくまでも参考する程度にとどめます。また、試験終了10分前くらいに試験官が10分前であることを告げてくれます。
問題の難易度は解きながら「まぁこんなもんか」という気持ちでした。難しくもないし、簡単でもないなぁという感触です。
試験結果
合格・不合格の結果
結果的には合格しました。スコアは以下でした。
- 午前I :免除
- 午前II:76.00
- 午後I :71
- 午後II:A
割と長いこと合格を目指していた試験だったので合格を知った時は素直に嬉しかったです。論述試験に合格できたこともちょっとした自信になりました。
今回の全体の結果
IPAが公表している今回の全体の結果です。
549人のうちの1人になれたようです。
図2.
引用:情報処理技術者試験(応用情報技術者試験、高度試験)の各区分の受験者数、合格者数について
まとめ
試験を通して得られたもの
システムの企画から運用保守まで包括的にシラバスに含まれているので勉強になったな、と感じています。個別の知識がそのまま実務で生きるかというと、そうではない部分が多いと考えていますが、知的好奇心を満たせた点と合格したという事実の満足感が大きいです。
あと、論述試験に合格できたというのは正しく日本語を書けるということが証明されたということだと前向きに考えています。
今後のキャリアプランへの影響
これに関しては何かプラスに働けばいいな、くらいの気持ちです。
※本記事は、ジーアイクラウド株式会社の見解を述べたものであり、必要な調査・検討は行っているものの必ずしもその正確性や真実性を保証するものではありません。
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